出逢うべき出会い



「わぁ~。やっぱりこの時期のこの紅葉が1番きれいだね。」

春日珠紀は鬼崎拓磨に言う。

「そりゃ・・・その・・・俺とお前との思い出の場所でもあるわけだし・・・。」

「うん。・・・色々あったよね。」

「ああ。」

やわらかい風の中、赤い紅葉が珠紀の手の中に収まった。

「う・・・。」

微かに頭に痛みがはしった。

「珠紀!大丈夫か?」

珠紀に触れた拓磨に伝染するかのように、2人は頭痛に襲われ、視界が霞んでいった。



「土方さん!見てください。きれいな桜ですよ。」

「おお、もうそんな時期か・・・」

土方の傍で柔らかな笑みを零す千鶴。

「おい、なんで笑うんだよ。」

「いえ、あの大変な日々を過ごして、鬼の副長とまで言われていた土方さんが、丸くなったと思いまして。」

「・・・うるせぇ。」

少し照れたように笑顔で土方を見る。

「ち・・・千鶴?」

少し顔を引きつったかのように千鶴に問いかけた。

「久しぶりに土方さんの俳句を聞きたいです。」

「だ・・・だから、あれはだな・・・」

強い風が2人を襲い、桜の花がいっぱい散っていた。

「・・・すごい風でしたね。」

「ああ・・・ん?」

土方は先ほどから見ていた桜の木の根元に目をやった。そこにはさっきまで誰も居なかった筈なのに、今まで見たことが無いような服を着た2人が寝ていた。

「土方さん?あの2人、何だか・・・」

「ああ・・・言わなくても分かってる。」

「きっと危ないですよね。どうします?」

「・・・連れて帰ろう。」

「はい!」

安心した笑みでへんじをする千鶴だった。



【これは・・・夢?あの時の夢だ。皆と一緒に戦ってきた時の夢・・・。】

「拓磨!!」

「・・・。」

隣で気持ちよさそうに眠っている拓磨の姿があった。

「夢・・・か。良かった。」

「起きましたか?」

聞き覚えの無い声にビクリとする珠紀。

「あ・・・安心してください。おびえなくて大丈夫ですよ。」

その言葉で珠紀は緊張の糸が解けた。

「あの・・・ここは、何処ですか?」

「蝦夷です。」

「蝦夷・・・蝦夷!?」

「・・・珠紀!無事か?お前・・・何者だ?」

「た、拓磨!落ち着いて。」

女性と珠紀の間に入って、その女性を睨みつけていた。

「あ、申し遅れました。私、雪村千鶴と申します。先ほども言いましたが、ここは蝦夷で・・・」

「でね、拓磨・・・私たち何だかタイムスリップみたいなのしちゃったみたい。」

「・・・うそ・・・だろ?」

珠紀は首を横に振った。

「え?・・た・・たい?」

「!き、気にしないでください!あは、あはははは。」

「千鶴、さっきのやつら、起きたのか?」

「はい。」

「あの・・・あなたは?」

「ああ、俺は土方歳三だ。」

「え!まじっスか?あの歴史上の、あの土方歳三っスか?」

急に真弘先輩や祐一先輩たちに向けて話すしゃべり方、敬語らしきものを使うようになっていた。

「そのこまけぇのはよく分からねぇが・・・そうだ。」

「珠紀が言ってた通りだな。」

「う、うん。」

「しかし・・・この格好だともし外に出るとなると、出れねぇんだが・・・千鶴、お前はこの子に服を貸してやれ。・・・そういやぁ、名前聞いてなかったな。」

「私、春日珠紀です。」

「俺は、鬼崎拓磨です。」

「じゃ、珠紀さんは私に付いてきてください。」

「あ、はい!」

「鬼崎は俺の貸してやる。」

「ありがとうございます。」



「珠紀さん、よく似合ってます!」

「あ・・ありがとうございます。」

「さ、鬼崎さんの元へ行きましょう。」

「はい。」

拓磨の元へ向かう途中、珠紀は決意をし、千鶴に問いかけた。

「私・・・玉依姫なんです。それで・・・」

「お姫様だったんですか!?」

「え?あ、き、聞いてください。」

「あ、すみません。」

「玉依姫と言ってもですね、巫女なんです。それで・・・2人からは人とは思えないものを感じて・・・。」

「・・・私は鬼なんです。」

「鬼!?じゃ拓磨と同じ・・・。」

「鬼崎さんも鬼なんですか?」

「鬼って言っても守護五家ってのがありまして・・・。」

「祖先から受け継がれた血なんですよ。」

「拓磨。」

「土方さん。」

「千鶴も聞かれたみてぇだな。」

「はい。」

「俺は、変若水ってのを飲んで羅刹・・・まぁ鬼のなりそこないになった。」

「私は元から鬼なんです。」

「そう、我ら鬼。女鬼は数少ない。今日こそ我が嫁として一緒に来てもらうぞ。」

「てめぇ、また来やがったな。」

「誰なんスか?」

「私と同じ鬼の一族の風間さん。あと、後ろの人は不知火さんと天霧さん。」

「拓磨、私たちも千鶴さんを守ろ!」

「当たり前だろ!」

「ダメです!普通の人とは違います!」

「そんなの相手にしてるんですよね?あの土方さんは。」

「天霧、お前はあの見たことの無い男をやれ。」

「分かりました。」

「不知火はあの女をやれ。」

「はいはい。」

「千鶴さん、私の後ろにいてください。」

「でも・・・危ないです!」

「諦めろ!女鬼。」

「危ない!!」

「大丈夫です!」

息を吸い込み、気持ちを整える珠紀。

「左青竜、右白虎、前朱雀、後玄武。扶翼・・・護身加持・・・急々如律令!!」

結界が姿を現す。

「すごい・・・。」

結界により弾は弾かれた。

「ちっ、なんだよあれは!おい、風間!」

「知らん。」

「略法!伏敵!急ぎ律令の如くせよ!」

お札から青い雷がはしって不知火目掛けて進んで行く。

「やった!」

「まだです。鬼はこれじゃ倒せません。」

「えっ?」

「その通りだ。しかし・・・これはきついな。」

「ふんっ、仕方が無い。引き上げるぞ。」

「おい!こら待てよ!おっさん!」

拓磨と戦っていた天霧は風間の一言で戦いを止め姿を消した。

「珠紀さんと鬼崎さん、2人ともすごいですね。」

「ああ、あいつらとほぼ互角じゃねえか。」

「それほどでもないっスよ。」

「そうですよ。」

「こんなこともあったから、今日は疲れてますよね?お風呂沸かしてあるのでどうぞ入ってください。」

「ありがとうございます。」



「ねぇ拓磨。」

「ん?」

「千鶴さんと美鶴ちゃんって何か似てない?」

「ああ、俺も思った。あと、風間ってやつと灰色頭。」

「遼?・・・そうかもね。」

「・・・しかし、俺たちどうやったら戻れるんだろうな。」

「・・・うん。」

そして二人は眠りについたのだった。




「・・・紀。珠紀!」

「ん。拓・・磨?」

「俺たち、ずっとここで寝てたのか?」

「蝦夷で千鶴さんと土方さんに会ったよね?」

「ああ・・・。とりあえず帰ろう。このままここにいると風邪引くぞ。」

「うん。」




「珠紀さん。鬼崎さん。おはようございます。」

襖を開けるとそこには布団が敷いたままのもぬけの殻だった。

「帰ってしまったようですね。無事に戻れたんでしょうか?」

「ああ、きっと。」

土方は千鶴を抱き寄せた。




「拓磨。きっとあれ、夢じゃなかったよね?」

「だろうな。あの天霧ってやつと戦った感覚が残ってる。」

「また、いつか会えるかな?」

「どうだろうな?」

「むっ!」

「冗談だよ。また、いつか会えるといいな。」

2人はあの2人と出逢った場所で今日もまた紅葉を眺めていた。





                            end
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