あなたは『赤い糸』と言われたら『運命の赤い糸』と頭に浮かぶと思う。


でも、僕の場合は『命を繋ぎ止める赤い糸』。


僕は月波 時(つきなみ とき)。小学生なんだけど持病を持ってて学校には行ったことないし、ずっと病室にいる。でも、この日の夜は少し違った。


今日は珍しく寝付けずに夜空を眺めていた。

「今日も何も・・・!!」

月をバックに黒い物体が勢いよくこちらに向かっていた。

「これ・・・ヤバイって!!」

急いで窓から離れる。

“バリン!”

予想より遥かにハデに登場した黒い物体。でもその物体は僕と同じくらいの女の子だった。

「あれ?あれれれ?!」

その女の子は何かを探すようにあたりをキョロキョロしていた。でも、姿で惑わされてはいけなかった。

「月波 時君は?う~ん。死神リストにはここだって書いてあるのに。」

死神リスト!?僕は逃げることを考えた。それは誰でもそうするだろう?でも、僕の運は最悪だった。

“ガタン”

かすかな音が僕の病室に響いた。

「見~つけた♪」

その女の子は僕の目の前に現れカマを振りかざした。

「ま・・・待った!!」

その女の子はピタリと動きを止めてくれた。

「何?」

冷たい視線。でも僕は勇気を振り絞った。

「僕・・・遣り残したことが・・・あるんだ!だからお願い・・・。」

「時間を少しください?」

え?その女の子は笑顔で僕の言いたい言葉を言った。

「いいよ。ただし期間は・・・えっと、ところで何したいの?」

「え?あ、えと・・・学校に・・・行きたいんだ。」

「う~。じゃ期間は3週間。」

「3・・・週間。」

「不満?」

「そんな贅沢なこと言えないよ。」

その女の子を見ると申し訳なさそうな顔で僕を見ていた。

「じゃこれで契約。」

僕の小指と女の子の小指を絡ませる。まるで約束をするように。

「期限3週間。この約束は魂を狩られる者、『月波 時』と、狩る者『クレス・リジェット』。」

絡まれた小指を離すと、そこには赤い糸が僕ら2人を繋いでいた。

「これで逃げられないからね。」

「・・・ありがとう。クレス・リジェット。」

少し赤くなるクレス・リジェット。

「ク・・・クレスでいいよ!」


「すごい!今日退院してもいいくらいだ。」

「やった!」

僕は退院し、明日からいよいよ学校だ。


「お母さん。ここが僕が通う小学校?」

「そうよ。」

「ここ・・・。」

「どうしたのクレス?」

「な、何でもない。」

同様が隠せていないクレス。


「は・・・初めまして、月波 時です。」

拍手の音が教室中に響き渡った。友達も増え楽しく過ごしていた。

「残り・・・1週間か。」

「・・・。」

「クレス?あの学校行ってから様子が変だよ?」

「・・・うん。あの学校は・・・。」

「クレス。」

そこにはクレスより大人のカマを構えた死神が立っていた。

「先輩。」

「また、魂を狩らないつもり?」

また?

「・・・。私は・・・この子に決めたんです。」

「僕に・・・決めた?」

「逃げるよ!」

「え?ちょっ・・・クレス?」


「クレス!クレス!!」

ゆっくりと走るスピードを緩める。

「クリス?僕に決めたって・・・。」

「まず、こっちの話するね。」


「私ね、実はあの小学校に時くらいの歳まで通ってたんだ。」

「だからあの時あんなに動揺してたんだ。」

「うん。でね、私いじめに合ってて、もう辛くて・・・それであの学校の屋上から飛び降りちゃったの。」

「そ・・・んな。」

言葉に詰まる。

「で、今に至るわけですよ。」

笑いながら、でも悲しそうに笑っていた。

「笑い事じゃないよ!」

「そうだね。・・・すっごい我がままって言うか・・・何ていうんだっけ?・・・まぁ、私の分まで、私が開けなかった未来まで生きてほしいの。」

「それはかまわないけど・・・でも僕後1週間しか・・・。」

「だから決めたの・・・私の命と引き換えにこの者の未来を切り開け・・・。」

クレスは僕の額に優しいキスをした。僕の体は暖かい光に包まれた。

「時に会えて良かった。」

光が治まり、何処を探してもクレスの姿は無かった。


「やっほ!あの時の男の子。」

「あ、クレスの先輩。」

あれから6年が経ち、僕は中学1年生になった。そして今日が入学式。

「何ですか?僕、もう寿命ですか?」

「だと良かったな。」

少し悔しがっている様子。

「で?」

「・・・やっぱり言うの止めだ。ま、どうせ会うしな。」

人を止めておきながら何の用件も言わずに去って行ってしまった。

「何だよ。」

ふっと目の前を見るとあの女の子の姿があった。

そう、クレス。僕の目には涙が一杯だった。

「どうして?」

「先輩が神様に頼んだらしいの。私を人間として生きかえしてくださいって。でもね、私、実は生きてたの。ずっと、生死を彷徨ってて・・・。う~~~~。何て説明すればいいの?」

「そんなのどうでもいいよ!クレス・・・君の本当の名前は?」

「天使 未来(てんし みらい)。」



僕の赤い糸は初めは命を繋ぎ止めるための糸だった。


でも、


今の僕の赤い糸は運命の赤い糸となっていた。


                                       fin
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