鴉取 真弘と春日 珠紀
私は、次の瞬間、真弘先輩の胸の中にいた。

まるで私の言葉を閉ざすように、真弘先輩は私の顔を胸に強く押し付ける。

真弘先輩の顔がすぐ近くにあって、それはとても悲しそうにしていた。

私は驚いて、体を離そうとしたんだけど――。

「うるせえ」

先輩は私を抱きしめたまま離さない。先輩の体の温かみや震えが、伝わってくる。

そう、先輩の体は、わずかだけれど、震えていた。

私はなんだか悲しくなって、抵抗できなくなった。真弘先輩はなんだか、すがるように、私の体を抱きしめていたから。

「うるせえバカ」


真弘先輩はもう一度そう繰り返した。ぎゅ、と私を抱く手に力をこめて。

真弘先輩のわずかな震えや、体の温かみや、悲しさが、なんだか、私の体にすうっと、入っていくような気がする。

真弘先輩が、怖がってるんだって、初めてわかる。

戦って、殺されそうになって、それがすごく怖かったんだって、わかる。

突然のできごとに、私は何も喋ることさえできなくなって。ただ、真弘先輩が、悲しいのは、すごくよくわかった。

真弘先輩は傷ついてる。先頭に立って戦ったぶんだけ、それは大きな恐怖だったはずで、・・・・・・私は、どう言っていいのかわからなくて・・・・・・。
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