鬼崎 拓磨
そして、その禍々しいまでの力から私を守るように、拓磨が私の前に、現れる。

「・・・・怪我は、ないな?」


拓磨はこちらを見ずに言う。

「大丈夫、おーちゃんが、助けてくれたから」

わずかな沈黙の後で、私は答える。

「我が力の一部を得たからとて、いきがりおって!」

ソレはじっと、私たちを睨みつける。

「珠紀、アレはとんでもない化け物。名前を付けるならまさしく、世界の終わりだ」

拓磨は奇妙に静かな声で言った。

拓磨の背中は大きく、頼もしく、けれど、その力は、どう考えても、ソレを上回るものではなかった。

拓磨はしばらくの沈黙の後でやがて呟く。

「・・・・・俺があいつを一箇所にクギづけにしてやる。チャンスは一度だ。ためらわずに、やれよ」


弱い風が吹く。

目の前には【世界の終わり】がいて、拓磨はただそれを見つめている。

「・・・・・やるって、何を」


そして、拓磨は、私に、信じられないことを告げた。

「・・・・・そんなことしたら、拓磨は・・・・」

できない、できっこない。そんなこと。

「やるんだ。方法はたぶん、それしかない」

拓磨の声は静かな決意に満ちていて、私の目から、涙が一筋、流れた。

・・・・・できないよ。拓磨。私は心の中でだけ、そう答えていた。
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